求賢令を発した曹操の気紛れは、城内の末端に至るまで程度は違うものの幾許かの被害を被った。
 その最大の犠牲者は、傍近くに位置する軍師、荀ケと、優れた才を見せるが主要な立場に立つことのないの二人だったと言えよう。
 だが、この思いつきから発した布令は、在野に秘めやかに潜んでいた数多の賢人、才人を見出す結果を導いたのだった。
 
 
 
 
 宴の始末
 
 
 
 「何故っ、お主らがここにいるのだっ!!」
 
 
 広間に集まった顔触れを見渡し、曹操は思わず声を荒らげた。
 
 
 「居ては、いけませんかな?」
 
 そう言ったのは、蜀の諸葛亮・・・劉備の筆頭軍師だ。
 斜め前には劉備を始めとして関羽、張飛が立ち並び、背後には趙雲や姜維、苦虫を噛み潰したような表情の馬超までが立っている。
 
 「そうとも! でなくば我らにも知らせが届くはずが無かろうぞ」
 
 「・・・知らせ・・・とな?」
 
 訝しげな視線を隠そうとせず、曹操が繰り返す。
 心当たりの無いも不安げに主君らの会話を見守っていた。
 
 
 「そう、蜀の各地にも『腕に、知略に覚えのある者は鄴に集え』といった内容の触書きが立ち並んでおるぞ」
 
 「我らが孫呉の地にも、だ。 だから来てみたのだが?」
 
 そう言って、孫堅はにやりと口元を歪めてみせる。
 
  ・・・・・・・・・・・・。
 
 
 
  (・・・誰だ? 蜀や呉の支配地にまで触れを出した奴は?)
 
  (・・・さぁ・・・? 配下を総動員して領内の彼方此方には立て札を立たせましたが・・・)
 
 
 
 「よもや曹魏のみで楽しもうとしていたわけではあるまいな」
 
 
 ずずいと凄まれて、そして、既にこの場に居合わせていることもあって、今更、出て行けとも言い難い。
 追い出そうものなら即座に剣戟を交わしかねない。
 
 
 「・・・・・・ケ、急ぎ・・・座を整えさせよ」
 
 仕方なしといった風情で曹操が命じれば、しばし広間が賑やいで、蜀・呉の将らの場所が設えられた。
 
 
 
 「さて・・・」 と、仕切りなおそうと私語を戒め、場を立て直した矢先だった。
 
 
 
 ばたんっ!!
 
 蹴破るように開け放たれた広間の扉に、皆の視線が集中する。
 
 
 
  「「「・・・りょっ・・・呂布だぁーっ!!!!!」」」
 
 
 現れたのは、赤兎馬に乗り、戦装束に身を包んだ呂布と、一歩下がって貂蝉が。
 その後ろには見覚えのあるような、ないような・・・幾人かを従えている。
 
 
 扉付近に居た若い兵らが叫ぶ。
 尻込みするは当たり前、あわあわと見苦しく逃げ出す者までいた。
 
 「慌てるなっ! 落ち着けっ!」
 
 そう叫び返す夏候惇も動揺が抑えきれない様子だ。
 
 
 「おいっ 張遼っ! 呂布は討たれたのではなかったのかっ! 」
 
 「い・・・居合わせたのは、殿の方ではありませぬか。 」
 
 確かにあの折、その場にいたのは曹操の方で・・・・・・・。
 
 「そ・・・そうであった。 確かに儂の目の前で・・・」
 
 そう呟くと同時に顔色はどんどん青褪めてくる。

  ・・・・・・ならば、此処に居るのは何者だっ!
 
 曹操の叫びに、部屋の中は一段を恐慌状態になり、事態は収拾が付かないかのように思われた。
 
 
 「袁紹を撃ち破ったと聞いていたが、相も変わらず見苦しい様だな、曹操よ」
 
 なにやら楽しげな宴を開くと聞き、冥府の淵から戻ってきたぞ。
 そう言いながら、ずかずかと広間の中央へと足を向ける。
 呂布の歩みにつれて人の波がさぁと引き、見様によっては奥へ奥へと導いているようだ。
 
 さすがに劉備や孫堅を押し退けて上座へ向かう事はせず、だが座が整うのも待たずして呂布はどさりと腰を下ろす。
 先の劉備たちの同席を認めたためか、曹操が視線を向けただけで付近の兵らが、急ぎ、場を設えれば、呂布ら一行も改めて居住まいを正した。
 
 「そう言えば、途中で何人か追い抜いてきたが」
 
 此処へ向かっているのだろうなと言い出す呂布に、「誰をっ!」と投げかければ、事も無げに董卓だと言う。
 
 
 「・・・ええい、もう誰が来ようと構わぬわっ! 」
 
 余分に席を設えておけと言いつけて、また別の者には、酒肴の用意をと命を出す。
 呑まずしてやっていられるかと言う気分だろう。
 もちろん費用はそれぞれにも負担してもらわねば・・・。 そう密かに思いつつ、許攸は側にいた小者に硯を用意させ、徴収にと費用の概要を書き出させる。
 
 やがて、呂布の言う通り、董卓ら一行と、袁紹、袁術ら、果ては黄巾党として名を広めた張角らまでが勢揃いし、不慣れな者は居た堪れずに逃げるようにその場を去り、残ったのは主君持ちの相応に揉み鍛えられたつわものばかりとなってしまった。
 
 「よき人材が居たかも知れぬのに・・・」
 
 悔しげに曹操は杯を飲み干せば、
 
 「焦らずとも己の人徳に惹かれ集ってくるものであろう」 と、劉備は言う。
 
 それがまた妙に気に障り、曹操は立て続けに二杯、三杯と杯を干していく。
 
 隣では、孫堅が趙雲を捉まえて語りながら酒を酌み交わし、張飛は孫策、孫権兄弟を相手に呑み比べを仕掛けている。
 気付けば、郭嘉や荀ケも、諸葛亮や簡雍、呉の魯粛、田豊を交えて片隅に腰を下ろしているではないか。
 
 その様子に唖然としている目の前で、酒瓶を抱えて賈詡が混じっていくのを、曹操は・・・見た。
 
 
 朱然殿ー! と、魯粛が呼ぶ声に、いそいそとやってきてその輪に交われば、諸葛亮も負けずと姜維を招き、荀ケは荀攸を呼び出し、程cを招き入れ、諸葛瑾が呂蒙を、呂蒙は陸遜を引き入れる。
 いつの間に加わったか、陳宮がにこやかな笑みを浮かべていて。
 
 「、貴方も此方へ来ませんか」
 
 穏やかな調子で荀ケに呼ばれれば、郭嘉も軽く箍が外れた様子で手招いてくるから、恐る恐るとその輪へと近付いた。
 
 
 「彼女はね、うちの期待の秘蔵っ子ですよ」
 
 見せたくないのに、見せちゃった・・・そんな声が聞こえてきそうな様子の荀ケも、馬の雰囲気に流されているようで素面なのか、会話の端々にちらりと見せる策士の顔が無ければ、安心してその場に留まれない。
 向こうは・・・と主君の座する上座へと視線を向ければ、すっかりやさぐれた様子で、それでも自慢の家臣を誇っている。
 一角では既に、力比べ・技比べが始まっているし。
 覇道の道を突き進む現役も、道を外れた者も問わず、なんとも和やかな雰囲気に包まれていた。
 
 
 
 
 
 辺りはすっかり陽が落ちて、夕闇に包まれる頃、一つ、二つと松明に明かりが灯り―――――・・・
 
 
 
 「そろそろこの辺でお暇することに致しましょうか」
 
 諸葛亮の声に、ぞろぞろと重い腰を上げる面々や、酔って潰れた仲間をたたき起こし、担ぎ上げたりと動き出す。
 
 身内自慢の花も咲き乱れ、暴れる者は存分に競い合い、語り尽くし、満ち足りた様子でぞろぞろと部屋を出て行く後ろ姿を、曹操は据えた眼差しで見送っている。
 その傍らには、疲れた顔のが、使われなかった竹簡を手に座り込んでいる。
 
 「・・・疲れたぞ」
 
 「・・・私もです」
 
 
 曹操に引き合わせる予定だった人々を、再び招くのは何時になるのだろうか。  気難しい者も少なくない。 呆れられ、断られるかもしれない。 怯えて出て来ない者もいるかもしれない。
 それを考えると、の気分は更に沈んでくる。
 
 ふぅ・・・と、ため息を漏らせば、労うように典韋や許褚が励ましてくる。 が、彼らは彼らで何も考えずに馬鹿騒ぎして楽しんでいたのを、は気付いていた。
 あの、生真面目な夏候惇ですら熱くなって麒麟牙を振り回していたくらいだ。
 彼らばかりを責められないと思いつつ、胡乱な眼差しを向けてしまうのを止められなかった。
 
 
 
 
 
 広間から更に控えの小部屋を通り、外へと続く回廊に出る。
 その入り口は一つしかなく、そこは異様なほどに混んでいた。
 
 
 一つの出入り口に人が集まったから・・・ではない。
 
 見ると、扉の両脇に許攸と陳羣が、それぞれに徐晃、夏侯淵、龐徳に楽進と内外に勇猛な猛将を従えて待ち構えているではないか。
 そして通る客人それぞれに呼び止めては、なにやら手元に広げた白布を指し示し、僅かな言い合いを繰り広げながら何かやり取りを交わし、最後は笑みを浮かべ、見送っている。
 
 
 
 最後の一人を見送って、許攸は陳羣とにこやかな笑みを交し合った。
 
 「ご協力、感謝いたしますぞ」
 
 「いやいや、これも曹魏のためなれば。 しかし見事な手腕でしたな」
 
 「私などとても。 傍らで睨みを利かせていて下さった皆の協力あってこそ」
 
 そう言いながら、徐晃たちに向かって礼を述べれば、彼らは彼らでやはり曹魏のためですからと笑っている。
 彼らの手元には、布袋に入った金子の山が一つ、二つ。 数えてみなければ正確なところは分からないが、まぁ彼らが飲み食いした分の費用くらいはあるだろう。
 もしかしたら、多少なり余分にあるかもしれない。
 それならそれで、痛んだ広間の補修費用や、予定外の招かれざる客人らの迷惑料とでもしておこうか。
 
 
 のちほど、その金子の袋を見せられて、曹操の機嫌が少しだけ、浮上した・・・らしいと、誰からともなく伝え聞いただった。
 
 
 
 
 
 

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「祭への参加および閲覧ありがとうございます」   
  
活字スキーで資料スキーな無双仲間と二人・・・
突発的に企画して始動してしまった今回の此れに、協同して頂いた皆様に
つまらぬものですがどうぞご自由に持って行ってくださいと
祭り趣旨と萌え、煩悩満載に書き散らしてみました。

祭りの企画、運営維持、共に様々な出会いがありました。
素敵な作品群に、真っ先に読者の名乗りを上げる役得も味わいました。
年度の区切りをちょうどよいとばかりに、公私共に多忙な時期に締めを切った己の迂闊さを嘆きつつ
さすがに全て揃い集わなかった期間内ですが、更に継続をかけると同時に第二段の計画を練りつつ・・・
ここまで読んでくださった皆様に、ありがとうと心から御礼申し上げます。。。 (朱音)


20061231
無双三國志夢祭 記念品
埴原朱音 【黒曜石
素材:【篝火幻燈