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炎がの髪を焦がした。
武器を手に人を殺す事を生業とするにとって、
「・・・切らないと痛んじゃうかな」
大好きな人の為に長く伸ばした髪は、女の命、他ならない。
だが今は戦、しかも赤壁での負け戦。
見慣れぬ地形に見知った人間を探す事すら難しい。
己の髪が少し焦げた所で、気にしていられる状況では無い。
陣営が煙に巻かれ、咳き込みながら外へ飛び出したは、
「襄陽へ撤退するぞ!お前も死にたくなくば走れ!!」
夏侯惇の指示で、着の身着のまま走り出した。
逃げ惑う兵卒達や追い掛けて来る敵兵達から辛うじて曹操を見付け、
「か、よく無事だった」
「いえ、殿も御無事で良かったです」
「ふん・・・わしが生き残れたは、関羽の情けよ」
「・・・・・・父上の」
それきり曹操は口を開く事は無く、僅かな護衛とを伴い華蓉道を抜けた。
の足が泥だらけになり、曹操も限界に差し掛かった頃、
「こっちだ孟徳!!」
曹操にとって最も聴き慣れた声が、川向こうから投げ付けられた。
「おお、惇か!!」
しばらく互いの無事を喜び合い、
「お前も孟徳をよく護ってくれたな。楽進もお前を心配していたぞ」
「え、楽進も一緒なの?」
「ああ途中で拾った」
夏侯惇に顎で示された先には、
鎧のあちこちを綻ばせて平然と立っている楽進が居る。
楽進は孫権軍の伏兵に気を配りながらもに気付き、
近付いて何をするのかと、曹操と夏侯惇の視線が見守る中、
「な、ちょっと放してよ」
の頬に付着する煤を拭い始め、頭に積もる灰を払い始め、
「子供じゃ無いんだから止めてよ」
「女ならば身奇麗にするのが当然らしいぞ」
曹操に茶化されて顔を真っ赤にしただが、
楽進とここで出会えた事は何より嬉しい訳で、
「・・・会えて良かった」
頬に触れて来る楽進に抱き付き、再会の喜びに浸っていたが、
「には悪いが、感傷に浸ってはいられない様だな」
夏侯惇が麒麟牙を構えた事で、場の緊張が一瞬で戻って来た。
橋の向こうでは孫権軍の追っ手が曹操達を発見し、
後続の仲間へ伝令を出している所だった。
「と楽進は孟徳と行け」
配下部隊に指示を出す夏侯惇の裾を握り、
「私も残ります!」
の意見に夏侯惇は、阿呆、とただ短く吐き出すと、
「お前が孟徳と居れば、少なくとも劉備共の牽制にはなるだろうが」
ここで孟徳を死なす気か、と続けた夏侯惇にはも俯くしか無く、
「楽進と共に孟徳を護れ・・・楽進?楽進はどこに行った!!」
「楽将軍でしたら、我等に殿をお護りする様言い伝えられましてあちらへ・・・」
夏侯惇配下の兵が振り向くと、楽進は既に吊り橋を渡り切っており、
「あいつは何を・・・」
夏侯惇の行動より早く、楽進は戟を振り上げて橋を支える縄を切ってしまったのだ。
一際目立つ音が川に流されて行った。
孫権軍の追っ手が楽進を囲み、
楽進によって斬り捨てられた敵兵が次々と川へ落ちて行く。
「が、楽進!!!!」
身を乗り出して楽進の名を叫ぶを、
「孟徳はこいつを連れて行け!」
従兄弟に押し付け、
「待って!私も戦う!!」
曹操は無理矢理の手を引き、振り返る事無く駆け出した。
諸葛亮と周瑜の采配は見事なもので、
「くぅ・・・ここにも伏兵か・・・」
この道を抜ければ曹操の支配及ぶ地だと言うに、
最後の最後に現れた伏兵は、曹操との希望を後退させた。
僅かな護衛も追っ手を振り払う為に全て道中で別れ、
今、曹操に付き従うのはしか居ない。
後は生きている内に、この道の向こうから援軍が現れるのを待つだけだ。
いや、待つなど曹操の趣味では無いし、主義では無い。
「お主を死なせては関羽に顔向け出来ぬが・・・」
「今の私は曹軍の一人で、父上は関係ありません。気遣わないで下さい」
そうか、と呟いた曹操が左から斬り付けて来た敵兵に剣を突き立て、
「危ない!殿!!」
体勢を整える間を狙われた曹操に割って入ったは、
上からの斬撃に耐えられ無かった槍諸共、身体を斬られた。
血飛沫がと曹操の眼前を覆い、
「!」
倒れたを抱き起こした曹操の腕を、血が遠慮無く伝う。
「あ・・・だ、い丈夫です。何とか・・・薄く斬られただけで。痛いけど」
斬撃の衝撃を吸収した槍と皮鎧がの命を救ったらしく、
心許無い足取りで自ら立ち上がっただが、
血を流すままにさせては危険なのは、彼女もよく理解している。
敵兵に囲まれた状況では、治療もままならぬと唇を噛んだ曹操の目に、
「おお・・・来たか!!」
見慣れた「曹」の字を掲げた旗が飛び込んで来た。
己を呼ぶ懐かしい声が、曹操の目の前で跪き、
曹操とが完全に助かった、と思ったのは実にこの時だった。
赤壁での敗戦は、確かに曹操の南下政策を挫折させるに至らせたものの、
財政等に何ら痛手を被るでも無く、建設中の銅雀台を完成させ、
曹操の勢いに衰えが無い事を、勢力の内外に示した。
敗戦の傷が癒えた頃、曹操は改めて将軍達を参集し、
「あの敗戦の中、よくぞ生き残った」
言葉を掛けて彼等を労った。
襄陽に残して居ない曹仁等にも感謝を述べ、
「時に楽進」
思わぬ名指しに場が静まると楽進が歩み出た。
何事かと諸将が注目する中、
「済まぬな」
曹操が頭を下げた事にまず驚いたが、
「わしを護る為、の身体に傷が付いた」
言い終わるが早いか、楽進は諸将の後ろに控えているを探し出し、
「っ!!!!!」
皆の視線が集まるのも関係無く、の上着を捲し上げた。
の陽に焼けた腹と乳白色の胸が不均衡で「綺麗」とは言い難いが、
興味を持って覗き込む者、見ては失礼だと顔を背ける者、
楽進の奇行に居合わせた者の反応はそれぞれだ。
曹操が頭を下げた通り、の右脇腹から肩に掛けて刀傷が一筋残っていた。
痛々しい、とまではいかない傷だが、やはり男と女では意味が違って来るだろう。
「な、なぁにすんのよおっ!!」
今まで楽進の奇行を為すがままにさせていたは全身から湯気を発し、
楽進が主導権を握っていた己の上着を奪い返して胸を隠した。
ついでに彼の頬を一発殴る事も忘れずこなす。
宙に浮いた楽進の手が行き場を失って固まると、
「楽進よ、本日はもう下がって良いぞ。を労わってやれ」
曹操の許可を受けて手はそのままを抱え上げており、
「へっ・・・ちょっ、下ろしてってば!皆見てるし!!」
暴れるを押さえ込む様に曹操に一礼し、
やはり居合わせた者が目を丸くする中、大股で広間を辞して行った。
「ねぇって、もう自分の足で歩けるから下ろして!」
散々が喚き立てた末、楽進がようやく解放したかと思えば、
「えっ、あ、の」
誰も居ない室、牀の上。
頬を紅らめて俯いたの髪を撫でた楽進は、
「っんむ」
無愛想なまま、その紅く染まった唇を塞いだ。
無口なのはいつもの事だが、秘め事の時だけでも言葉が欲しいと思いつつも、
楽進の極端に不器用な愛情表現、極端に不器用な愛撫を、
が嫌い拒んだ事など一度も無く、
「もう戦に出るな」
少々厳しい楽進の物言いには少し唇を歪め、
「・・・楽進の方が傷だらけだし」
彼の顔に走る傷を一つずつ触れ、擽ったいのか眉を動かした楽進を笑い、
「もっと触って・・・もっとたくさん、私の事好きになって」
吐息に乗ったの声に楽進は頷くと、の身を牀に横たえさせて再度口付け、
「・・・ん」
舌の絡まる感触には静かに瞼を閉じた。
この祭を企画した友の言葉に踊らされ、「モブ将 救済雇用センター」にやはり踊らされ、
楽進・・・蒼天楽進の性格のまま、お相手決定。
好きな様に書いてくれ!って事だったので、もう何も弁解する言葉は御座いません。
一応無双4赤壁逃亡戦が下地になってますが、色々と手を変え品を変え・・・
管理人に名を列ねているのにこんな夢で申し訳無いです。
無双キャラが相手ではないのに、ここまで読んで下さった方に感謝。
そして祭企画〜サイト立ち上げ運営まで一手に引き受けてくれた朱音さん、ありがとう!!!
20060711
無双三國志夢祭 記念品
雨流天斗 【八月ストリート】
素材:【Mon petit bambin】